2022年10月3日月曜日

ジャズピアニストの古民家活用法



吉野で、僕は古民家暮らしをしています。
正確にいえば、築100年の古民家で仕事をして、築70年の古民家で寝起きしています。

どちらもとても素晴らしい家で、この家に出会えたことを僕は心から感謝しています。

僕が古民家で暮らすのはこれが初めてではなく、吉野に来る前、大阪阿倍野でも築80年の古民家で5年間暮らしていました。


僕が古民家に興味を持ったのは、奥さんの実家のお墓がある広島県呉市にある入船山記念館を見に行ったときのことでした。

入船山記念館は海軍の司令長官の官舎で、洋館と日本家屋が繋がった形のとてもきれいな家です。この家が祖父母の家に似ているなあと思いながら日本家屋の廊下を歩いていると、とても気持ちいい風が吹きました。

こんな家に住めたらいいねと奥さんに話すと奥さんのスイッチが入って、あっというまに阿倍野にある古民家の物件を探してきました。

この家は貸し家でしたが、リフォームして良いとのことでかなり改造しました。防音することで寒さを防ぎ、これが古民家とつきあうにあたってとても勉強になりました。

土と木で出来た家での暮らしは、それまでのビル暮らしとは比べものにならないほど快適でした。

まず湿気に悩まされることがなくなり、ビルでは部屋の壁という壁に溜まっていた夏の熱気が、古民家にはなく、エアコンをつけないまま外出して家に帰っても、むしろひんやりしていたことに驚きました。隙間から蚊が入ってくれば蚊帳を張り、ネズミが入ってきたときは大家に交渉して猫を飼いました。

そしてこの家では、自分でコンサートを開くことができました。

最低限の設備でかたちになるかならないかのコンサートでしたが、襖を外して二つの部屋を繋げ、一つの部屋をステージにして、もう一つの部屋を客席にしました。

家でコンサートができることは、僕にとってひとつの革命的なできごとでした。

ジャズプレイヤーの多くはライブハウスを活動場所にしています。

ですが特に近年は、ライブハウスでの活動で生活を支えるのはとても困難です。

メジャーの中でもテレビやメディアで話題になっている人でもなければ、集客に相当なエネルギーを使うことになります。メジャーの人たちは桁違いの宣伝費を使っているので、むしろ僕たちよりも使うエネルギーは多いかもしれません。集客ができなければライブハウス側にも申し訳なく、とても気を使います。

僕にはそれがとても難しいと感じているのでライブをしない時期が長かったのですが、家でライブができるのであれば集客できなくても誰にも気を使わなくていいし、収入面でも条件が良くなります。

家でのコンサートが気楽だったので、外でコンサートをするときも、ライブハウスではなく小ホールなど会場を借りてコンサートをすることが多くなりました。

そのうち阿倍野の家では和室のデッドな音響を生かしてCDの録音もするようになりもあり手狭になってきたので、古民家の物件を探し、吉野町にご縁をいただいて吉野で暮らすことになりました。

取り外しのできる襖で仕切られ、スペースに融通のきく日本家屋の古民家は、ほぼ確実にコンサートスペースを作ることができます。

吉野の家ではグランドピアノやドラムを置いていますが、広さがおよそ半分しかない阿倍野の家では電子ピアノひとつでした。そこにギターやサックスのゲストを呼んでコンサートをしました。

僕は古民家が大好きなので、日本中の音楽家がみんな田舎の古民家で自分のコンサートスペースを持って、あちこちで良い音楽が聴けるようになって、音楽家を呼び合うようになったりもして、田舎に行かないと凄い音楽が身近で聴けないなんてことになったりしたら面白いだろうなと思ったりしています。


0 件のコメント:

コメントを投稿