2022年10月24日月曜日

MP3だけではわからないこと


 僕はピアニストですが、機材が大好きです。

ひととおりの機材は持っていて、ケーブルは自分ではんだづけして作ります。

僕の機材は、高さ2メートルくらいの棚二つに収まっています。

どれもアナログの機材です。

パソコンひとつで録音できる現代ではあまり使っている人はいないと思いますし、実際時代遅れですが、僕は、このアナログ機材を通した音が大好きです。アナログ機材を通すと音があたたかくなり、わずかでも、生の音に近づいてくれる気がします。

僕が子どもの頃、音はすべてアナログでした。

レコードはもちろん、テレビもオルゴールも、デジタルが存在しない世界でした。

シンセサイザーもアナログでした。

デジタルは非常に便利なので僕も大いに使っていて、デジタルがなければ生活も音楽も成り立たないところまできています。デジタルミュージックも大好きです。

それでも、僕は、デジタルのない世界で子ども時代を送ることができたことをとてもラッキーだったと思っています。

超音波を削ったデジタル録音のCDは音がクリアです。しかし、録音した空間すべての音を拾っているレコードは音の情報量が多く、よりリアルです。

現代において、聞こえてくる音楽はほとんどデジタルです。CDですらなく、MP3であることも多いです。MP3はデータが軽い分、情報量が少なく、僕は、音楽の輪郭をなぞったものであるように感じています。

レコードやカセットテープしかなかった昔は、音楽に乗せた心まで受け取ることができていたように思います。だからこそ僕たちは熱狂することができたのではないかと思います。

子どもの頃、僕は、母の住み込みのお弟子さんたちと、毎晩レコードで最新チューンを聞きながら踊っていました。大人たちも、オーディオの前にゆったりと座って、お茶を飲みながらコンサートのようにレコードを聴いていました。

デジタルは僕も好きですが、人間の魂の力を感じることのできるアナログの存在感がなくなってゆくことは、とても寂しく、そして危険なことだと思っています。

アナログの音楽に触れるには、家に設備がなければレコードのあるジャズ喫茶へ行ったり、生演奏を聴きに行ったりしなければなりませんが、面倒でも、特に生まれたときからデジタルに変換された音楽に囲まれてきた若い人には足を運んでみてもらえたらと思っています。


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