2022年11月4日金曜日

カクテルピアノとジャズピアノ


 ジャズピアノといえば、夜景のきれいなおしゃれな酒場で流れていたり、横でセクシーな女性が歌っていたりいるイメージを持っている人も少なくないと思います。

確かにこうした音楽もジャズの音を使っていて、ジャズのスキルを使って弾くことが多いのでジャズピアノと呼べないものではないのかもしれませんが、正確にいえば、カクテルピアノという、違うカテゴリの音楽です。

カクテルピアノは、名前の通り、カクテルを飲みながら聴けるような、BGMになる音楽です。ラウンジピアノと呼ばれることもあるようです。

カクテルピアノを弾くときは、デートをしている二人の会話を邪魔しないよう、ロマンチックな雰囲気をつくります。

間違えてもアドリブをゴリゴリ弾いたり、アップテンポの曲でテクニックを競うことはありません。

最高に贅沢な空気をつくるのがカクテルピアノなので、演奏者は主役にならないことが仕事です。そして、最高の脇役にならなければなりません。

僕は東京にいた頃、アメリカから帰ったばかりで日本での音楽活動の勘がつかめず、生活のためにバーでピアノを弾いていた時期がありました。

最初の頃は「音が大きすぎる」「もっと静かに」とよく注意されていましたが、あとのほうになると「先生」と呼ばれて、お店からとても大切にされました。

その代わり、自分のライブでも、お客さんが食事をしたり、話をしたりしはじめると無意識のうちにお客さんの邪魔にならないように演奏するようになってしまっていたので、これには少し困りました。

カクテルピアノはピアノを演奏する人にとって安定した収入源になりますが、ジャズピアニストになることを目指している人がアルバイトにするには、少し注意が必要です。

ジャズピアノ=モダンジャズは、自己主張の強い音楽です。

白人によってオーケストレーションされ、サロン・ミュージックにされたジャズに反抗した黒人によって、リズム重視、即興重視のアフリカ音楽を復興したのがモダンジャズです。

そして、カクテルピアノはサロン・ミュージックのひとつです。

モダンジャズのジャズピアノとは、精神的に正反対の音楽なのです。

ですが、カクテルピアノを弾くうえで、ジャズピアノ理論は非常に役に立ちます。

モダンジャズのアドリブは、即興演奏を可能にするために高度に練り上げられた作曲理論です。

ジャズピアノ理論を勉強しておけば、わざわざ編曲された楽譜を買わなくても、メロディ譜さえあれば無限に、しかも自分好みに、カクテルピアノのレパートリーを増やすことができます。

正確に弾く必要がなくなるので、練習の手間も省け、仕事として、効率的にピアノが弾けるようになります。

ですから、カクテルピアノを弾く人にこそ、ぜひジャズピアノを学んでもらえたらと思います。

ジャズライブハウスにもお酒があり、料理もありますが、演奏されている音楽、そこで求められる音楽は全く違います

ジャズピアノをこれから学ぶ人も、今学んでいる人も、この二つのピアノの違いをしっかりと意識し、方向性を定めることも上達への近道のひとつです。

無意識に行なうことは体に染みつくと解決が困難なので、特にジャズピアニストを志望しながらカクテルピアノを仕事にする人は、しっかりと意識しておきましょう。


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